一匹少女が落ちるまで
「理央…いつもとちょっと違います」
頬を包む俺の手に嫌がるそぶりを見せることなくそういう紫月。
「そんなこと言ったら、紫月もいつもと違うけど」
上下黒のスウェットに、まだ少し湿気ている長い黒髪。
温泉のおかげなのか、外の空気のせいなのか、すごくスベスベで透き通る肌。
彼女を初めて可愛いと感じた日から増して、紫月が可愛い。
多分、俺の顔は若干赤くなってるはずだけど、そんなものとっくに、赤羽にバレてるんだから紫月にだってバレている。
ヒューっと冷たい風が吹いて、その風がより自分の中の熱を気付かせる。
「紫月…」
「なんですか?」
頬を包まれたままだけど、怒ったり手をどかしたりせずにそう聞いてくる紫月。
絶対ずるい。
紫月は計算でこんな顔をするような子じゃないのはわかつているのに。
俺のこと、弄んでる?
なんて疑いそうになるくらいだ。
メガネ越しに上目遣いでこちらをまっすぐ見つめる目がすごくキラキラしていて。
また、おかしなことを言いそうになる。