一匹少女が落ちるまで
【side 紫月】


ジッとしていた私の唇に。


理央の唇が優しく触れた。


顔を斜めに傾けて、私の頬を包んだまま近づいてきた理央に、なんだか見惚れている自分がいて、一歩も後ろに下がることのなかった自分に、ただただ驚いている。



それと同時に、感じたことない自分の鼓動の速さに、戸惑う。



「理央、なに、したんですか…」


「初めて、紫月と会ったときを思い出してた」


顔を見上げると、真っ赤な顔をしてこちらをじっと見ていた理央がいた。



「…意味が…わかりません」


「…キュンと…した?」


唇はもうとっくに離れたのに、その感触をまだ忘れることができなくて、心臓がドキドキとうるさい。



こんなの。



初めてだ。



「よく、わからないです」


思わず、彼から目をそらす。


理央がまともに見れない。


初めて会った時と。


全く同じことをされたはずなのに。


どうしてこんなにも。


違うんだろう。



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