一匹少女が落ちるまで
「理央っ」
俺に腕を引っ張られていた紫月は屋上に着いた途端、そう俺の名前を呼んだ。
彼女の声は完全に痛がっている声で、それなのに、名前を久しぶりに呼んでもらって喜んでいる自分がいた。
「ごめんっ」
そう言って、彼女の腕から自分の手を離す。
「…なんですか」
不機嫌。
紫月は、修学旅行から帰ってきた日から、何かと不機嫌だ。
やっぱり…。
「怒ってる?」
「…え?」
「修学旅行の時のキス」
「……っ!」
紫月は目を見開いて少し驚いた表情をしたけど、その顔を隠すように横を向いて俺から完全に目をそらした。
「ごめん」
「……」
謝って頭を下げたけど、紫月は黙ったまま。