一匹少女が落ちるまで
「…俺もなんか手伝うよ」
───っ!
キッチンに立って夕飯の準備をしていると、突然隣から声がして思わず肩がビクッと上がる。
久しぶりに近くで聞いた彼の声は、なんだか少し低くなった気がした。
「…え、でも」
「これでもちょっとくらい料理できんの。皮むきは俺がするから」
「あ、は、はい」
ぎこちない。
私は実にぎこちない。
理央と話したのは「邪魔しないで」と怒鳴りつけたあの日以来で、今までどうやって理央と接していたのかがわからない。
隣で人参の皮を剥く理央の横顔とか、
ピーラーを持つ手とか
かすかに香る柔軟剤の匂いとか
今まで気にならなかったこと全部が気になって。
玉ねぎの切り方を忘れそうになる。