一匹少女が落ちるまで
「すげぇ傷ついてたんだけど…」
「離して……理央…っ」
耳元で話す俺の声を少しくすぐったそうにする紫月がまた俺をおかしくさせる。
「また俺と普通に話してくれるって約束してよ。そしたら離してやる」
「……」
「わかったっていうまで、離さないよ?」
「……」
きっとまた、避けられるかもしれない。
もっと嫌われるかもしれない。
だけど、
俺には紫月しかいないんだってことを
わかってほしい。
「…なぁ、紫月」
「……」
ちょっと意地悪な声で名前を呼ぶと彼女はまた体をビクッとさせた。
「……みんなが集まってもずっとこのままでいいの?」
俺は別にずっとこうでもいいんだけどね。
「……紫月」
─────ガチャ
───っ!!
「わかったから!」
突然のドアの開いた音と共に、紫月がそう言ってから、俺の手を振りほどいて、コンロの火を消した。