一匹少女が落ちるまで


「おはよう、理汰」


階段から降りてきた人物に母さんは帰ってきた俺にしたみたいに優しく笑ってそう言った。


長い間切られていない肩まで伸びきったストレートの黒髪。


黒のTシャツにグレーのスウェットパンツももうずっと同じスタイルだ。



「…兄貴、おはよう」


伸びきった前髪で、目が見えないため兄貴がどこを見ているのかわからない。



だけど、いつもみたいに明るく声をかける。



「……はよ」


兄貴は、本当に小さくそう声を出すと、冷蔵庫に向かってミネラルウォーターを数本と、棚からカップ麺を何個か取り出す。


俺と母さんはそんな兄貴を黙って見てることしかできない。


何もしてあげられない。


黙っていることしかできない。



ただ突っ立っている自分に少しイライラする。



────ガチャ


────っ?!



玄関のドアが開く音がして、俺たち3人は一斉に玄関に続く廊下を見つめた。





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