一匹少女が落ちるまで


誰か嘘だと言ってくれ。


こんなタイミング…。


「兄貴、早く部屋に……」


「ただいま」


急いで兄貴を部屋に帰るように促していると、低くて大嫌いな声がそう言った。



「…なんだ、この家は一家の大黒柱が久しぶりに帰ってきたって言うのにおかえりの一言もないのか」



始まる…。


恐れていた時間が。



「あ、お帰りなさい、あなた」


母さんはそう言うと、小走りで父さんのカバンを受け取ろうとした。



「すぐに戻る。ちょっとシャワーを浴びにきただけだ」



───っ


父さんはそう言って母さんを軽くあしらうと、俺を見て少し顔色を変えた。


「理央、部活の方は順調か?」


「……っ」



そんな父さんの言葉に、俺はずっと苦しかったんだ。



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