一匹少女が落ちるまで
父さんが風呂場に向かって、シャワーの音が聞こえた時。
俺たちはやっと、しっかりと呼吸することができた。
「…兄貴、気にするなよ?父さん、多分仕事で疲れあんなこと───」
「……」
兄貴はそう言う俺の言葉を無視して、2階へと上がっていった。
母さんは、今にも泣き出しそうな顔をしながらキッチンへと戻って行く。
いつまでこんな生活が続くんだろうか。
俺たち家族がこんな風になってしまったのは
、今から5年前、世間体を気にする父さんの期待に答えようと、今俺が通っている桐ヶ丘高校を受験した兄貴が受験に落ちた時から始まった。
兄貴は頑張っていた。
とても頑張っていた。
だけど、だから上手くいくなんて、努力は報われるなんて、そんな言葉が逆に、兄貴を追い込んでいったのかもしれない。