一匹少女が落ちるまで
「呼んでくれるまで…どかないよ?」
今までは、こんな私に話しかけてくれる優しくて頼りになる先輩だと思ってた。
ううん。その気持ちは今だって変わらない。
だけど、そんな意地悪を言う今まで見たことない先輩に正直戸惑ってしまう。
「なんで言えないの?あいつのことはずっと前から名前で呼んでるでしょ」
あいつ…。
私が名前で呼ぶのは、男子で理央しかいない。
呼べば…いいんだよね?
初めての距離感にどうしていいかわからず目を泳がせながら私はゆっくりと口を開いた。
「…と、」
「…ん?何?」
「とう……」
「朝から何してんすか」
────っ?!
朝一聞いたばかりの心地よい声が、ちょっと不機嫌な音で踊り場に響いた。