一匹少女が落ちるまで
「…理央っ」
私が彼の名前を呼ぶと、彼は嬉しそうに笑ってこちらを見た。
「はよ、紫月。こんなとこで何してんの」
理央はチラッと先輩を見て、私にそう聞いて来た。
「…風間先輩とばったり会って、少しお話を」
「ふーん」
と理央。
「あれ。桜庭くん、元運動部のくせに先輩に挨拶もできないわけ」
風間先輩は私と話すときよりトーンを落として、私から手を離すと、体を理央に向けてそう注意する。
「あぁ、いたんですか。風間先輩。どうもおはようございます。…紫月、行くぞ」
「え、ちょっ……」
「おっ、おい、まてっ!」
理央は風間先輩の手から解かれたばかりの私の手を掴まえると、私や先輩の声を無視してそのまま階段を上がりだした。