一匹少女が落ちるまで
「俺さ、紫月がここに来なくなってた間、紫月が読んでた本を何冊か読んだんだ」
「えっ」
理央は、本棚から一冊の本を手を伸ばして取り出すと、私に差し出した。
「紫月の言葉がどうしていつも心に響くのかわかったよ」
理央はそう言って、優しく笑った。
今度は本当の笑顔。
「響く?」
「作品の中の主人公に感情移入したり物語の世界に入り込むことに慣れているから、現実でもその時に相手が言ってもらったら1番安心する言葉を知らず知らずの間に上手にかけられてるんだと思う」
「…そう…ですかね」
褒められて、悪い気はしない。
むしろ、
緩む口元を手で隠しそうになるくらい、にやけそうになる。
「紫月に嘘がすぐにバレちゃうのも、本の世界でたくさんの人たちの心を見てきた紫月だからなんだよな」
「関係、あるんですかね」
「あるに決まってんじゃん」
理央がそう言って、私の頭を優しく撫でてから、私たちは、久しぶりに『特等席』に座った。