一匹少女が落ちるまで


私が中学生に上がってからは、パパも仕事が忙しくなってきて、お互い交わす言葉も減っていた。




今はもう、パパに久しぶり話しかけられても、

私の方が無視するような形になってる。



改めて考えると、パパにいつ呆れられるか怖くて、距離を置いていたのは私の方かもしれないな。



ジューと美味しそうな音をするハンバーグを、火を調節しながらゆっくり焼く。


正直、ママのハンバーグなんて、作り方を教えてもらう前に亡くなったから味付けや隠し味なんてわかんない。


だけど。


感覚で。


なんだかわかるんだ。



いつも隣で見てたから。


エプロン姿でキッチンに立つママの後ろ姿が大好きだった。



『玲奈、好きな男の子の心を掴むのに大切なのは、胃袋を掴むことよ?』


『胃袋?』


『頑張ってお仕事して帰ってくる旦那さんにお疲れ様って美味しいご飯を作ってあげられるお嫁さんになるの』


『うん!玲奈、ママみたいなお嫁さんになる!』



そうだ。


忘れていた。


素敵なお嫁さんになる。


それは私とママの最初で最後の約束だった。



誰かを僻んだり、嫌がらせをするような人になるはずなんて…なかった…。




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