一匹少女が落ちるまで
本当…相変わらず人の気持ちも知らないで…
俺は、ベッドで寝転がってた体を起こして「うん」と返事をした。
やっぱり体は正直だ。
絢は「じゃ、司がお風呂上がる前に2人で食べちゃお」なんてイタズラっぽく言いながら部屋の真ん中にあるローテーブルに2つのお皿を置いた。
お皿の上には、いちごのタルト。
「なんかすごい久々な気がする〜大雅の部屋でこうやって座るの。大雅が受験生の時は毎日こやってたのが普通だったのにね」
絢はそう言って笑うと「いただきま〜す」と幸せそうに手を合わせて、タルトにフォークを刺した。
絢のフォークを持つ手とか、袖からチラッと見える華奢な手首とか。
やっぱりたまらなく好きだって実感させてきて。
「ん〜っ!しあわせっ!」
目をつぶって、そう言う絢をじっと見つめる。
こんな嬉しそうな顔。
兄貴はケーキがなくったって、絢に毎日こんな顔をさせることができるんだろう。
羨ましくて
悲しくなる
絢は、俺のこと少しでも男として見てくれなかったのかな…なんて。
「あれ、大雅、食べないの?」
目を開けて、ケーキにまだ手をつけていない俺を見て、彼女はそう聞いた。