一匹少女が落ちるまで
「でも、大雅には司と同じくらい幸せになって欲しいって本気で思ってる。だって、大事な弟だし」
「…なんだよそれ」
「こんな私のこと、好きだった言ってくれてありがとう」
絢はやっぱり俺より大人で。
俺が初めて好きになった、最高に素敵な女だ。
本当は今すぐ抱きしめたくて、触れたくて仕方がない。
だけど、自分で窓を開けるために。
我慢だ。
─────ガチャ
───っ、!
「こんなとこに隠れてた」
突然ドアが開くと、兄貴がタオルで頭を乾かしながら絢をみてそう言った。
「だって司、女の子並みにお風呂遅いんだもん!だから大雅におしゃべりの相手してもらってたの」
目でケーキの残りをチラッと捉えた兄貴には、絢のそんな嘘すぐにバレてるだろう。
「お風呂入ってると、お風呂掃除したくなんの。いいことだろ?」
「裸でお風呂ウロウロして掃除したら風邪ひきますー!」
「いいよ。そしたら絢にうつしてやるから」
2人のそんな会話はいつものことだけど。
やっぱり絢が1番に好きなのは兄貴だっていうことがわかって、辛い。
「2人とも、人の部屋でイチャつくんじゃねーよ」
俺は軽く兄貴を睨みつける。
このバカ兄貴は本当、
少しは弟に気を使えってんだよ。
「はいはーいっ。お邪魔しました〜!」
絢はいつも通りの声のトーンでそういうと、兄貴より先に兄貴の部屋に戻って言った。