一匹少女が落ちるまで
「…俺のせいで…ごめん。俺がもっとちゃんとした兄貴なら…ちゃんと父さんの自慢できる息子になれれば…理央だって…───」
「バカなんじゃないの?」
───っ?!
理汰さんが話している声を遮ってそう言ったのは、今まで黙って聞いてた園子だった。
「俺のせい、俺のせいって、聞いてるこっちがムカつく!」
「そ、園子?」
私が慌てて声をかけても、園子は手を腰に当てて怒ってるようで私の声なんて聞いていない。理汰さんもそんな彼女を見て、少しびっくりたように見えた。
「本当はわかってるんでしょ。理央くんも自分も何も悪いことはしてないって。自分の人生なんだから。自覚があるから、もう一回お父さんのために頑張ろうって行動できないのよ」
「え…」
「理央くんが自分のせいで辛い目にあってると心の底から思ってるなら、そんな前髪で顔隠して家でじっとすることなんてできないと思うのよ。弟を助けるつもりでお父さんの信頼を取り戻すために頑張るはずでしょ?」
「ちょっと、園子…言い過ぎ…」
「何が?私、この人のこと少しも責めたりしてないよ。可哀想だとも思ってない。むしろ口だけ被害者面して行動が伴ってない理汰さんに尊敬する。理央くんのお兄さんなら、こんな時くらい、自分の気持ちをちゃんと父親に話す手本、弟に見せてやんなさいよ。あなたはまだ、何もしてない。やり直すも何もまだ始まってもないわよ。全部これからなの」
ところどころひどく聞こえるセリフだけど…。
園子のその言葉に、ちゃんと優しさがあるのを私は知っている。
「……っ」
「1人で行動するのが怖いなら、私が一緒に行ってあげる」
園子はそう言って、理汰さんの手を取った。