一匹少女が落ちるまで
「父さん。…俺、もうバスケはしない」
先に口を開いたのは理央だった。
「なんの冗談だ」
「冗談じゃないよ。本当。医者からもうバスケ部に復帰してもいいって言われても、ボールを持ちたいって思わなくなってたんだ」
「……」
「バスケだけじゃない。兄貴の代わりに、父さんの喜ぶ顔のために、ずっと嘘をついて生きてた。学校でも家でも」
「嘘?」
「楽しくないのに笑ったり。よくないってわかっててもみんなと同じ行動をしたり。父さんの喜ぶ顔のためっていうのも本当は違くて、父さんの機嫌がよければ母さんや兄貴に危害を加えないから…だから…」
「危害?父さんがいつお前達に危害を加えたっていうんだ。お前達のことを思っていつも行動して…!」
「違う!父さんは…父さんはいつも…」
ちゃんと俺の気持ちを。
父さんに伝えなくちゃ。
初めはそこからだ。
何かを初めるために。
「なんだよ」
こちらをギッと睨む父さんに少し口ごもりそうになったけど、俺は拳を握って口を開く。