一匹少女が落ちるまで
「…なんなんだ!全部わかったような言い方なんかして!」
ローテーブルをドンと叩いて、登さんがそう怒鳴った。
そこは登さんに同調してしまう。
そうだよ…いくらお父さんでも、今のは言い過ぎだ。
「違うよ、登。僕も君にこんなこと言えるほど子供にしてあげられていない」
「……は?」
「でも、ここで言うことで再確認というか、改めて意識していこうって思えるから」
意識…。
今まで聞いたことなかったお父さんの気持ちの内。
仕事ばかりで私たちのことどうでもいいのかもなんて思ったこともあったけど。
きっと、表面は違うけどお父さんも登さんも
少し似てるのかもしれない。
「そんなこと自分のうちで勝手にやればいいだろ?人の家で…」
「僕は今も、君を仲間だと思っているから。悩んでるなら、苦しんでるなら、一緒に頑張りたい。だから、ここめがけてやってきたんだ」
「仲間…ね。なら俺の気持ちもわかってくれ。やっと会社が軌道に乗ってうまくいってるんだ。何にも邪魔されたくない」
やっぱり、登さんは息子たちよりも仕事が1番なんだろうか…。
「登。子供は親の背中を見て育つなんて間違ってるよ。手を広げて待ってる親に抱きしめられた記憶があるから安心して外へ飛びだせるんだ。いつでも逃げ込める場所がどこなのかちゃんとわかってるから。子供のただいまって笑いかける笑顔をどうやってお金で買えられるって言うんだ」
「頼むからもう…帰ってくれ」
目の前で俯いてそう言う登さんは1番悲しそうな顔をした。