一匹少女が落ちるまで
「…理央っ、理央っ!!」
走るのは得意じゃないし、大きな声を出すのだって苦手だ。
だけど、そんなこと言ってられないくらい、それが止められないくらい。
理央を見つけるのに必死で。
私は何度も彼の名前を呼んだ。
『理央でいいよ』
彼がそう言ってくれた時から、私はずっと彼のことを『理央』と呼んでいる。
この気持ちが恋だと気づいてからは、それがすごく特別に思えて。
名前を呼ぶだけでドキドキしたのも、
名前を呼ばれるだけで嬉しくなったのも、
理央が1番で
理央が初めてで
「…行かないで、理央」
あちこちを探し回って、走り回る。
もう時間は出発時間10分前。
「…理央っっ!」
メガネを外して、涙でぐちゃぐちゃになった顔でそう、彼の名前を呼んだ時だった。