一匹少女が落ちるまで


「…理央のバカ」


「…ハイハイ」


きっと今の俺にはなんの言い訳もできない。


彼女の前では嘘をつかないと決めたのに。


こんな大きな嘘をついてしまったんだから。



「…夏休み…楽しみだって」


「…うん」


「言ったのは理央じゃない」


「うん。ごめん」


「絶対許しません」


俺の胸に顔を埋めたままの紫月をギュッと抱きしめたまま、俺は「はーい」と返事をする。


こんなに近く強く抱きしめているのだから、俺の心臓の速さにいい加減気づいてくれればいいのに。


紫月はそういうところが本当に疎い。

そんなとこが全然変わってないのがまた好きなんだけど。


だいたい、俺の名前を呼びながら泣いていて、挙げ句の果てに俺に飛びついてくるなんて。


可愛いの極みでしかないんだから。



「紫月、本当に今までありがとう。紫月との思い出があるから、向こうに行っても頑張れるよ」


思ったよりも、平気な自分にこんなに強くなったんだと実感する。


やっぱりそれも紫月のおかげで。



「…紫月、あんまりくっつかれるとさ、俺我慢できなくなるかもよ?」



そりゃ、公衆の面前だけど、


健全な男子が好きな女の子に抱きつかれているんだから無理はないと思う。


「離れないなら…チューするよ」


それでも離れようとしない彼女に俺はいたずらっぽくそう言う。


また、どうせ『バカ』とか『意味がわかりません』とか言われるんだろうと思ったのに。




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