一匹少女が落ちるまで
「理央がいなきゃ、私ダメになってるの」
「……」
「理央がいたからできたことばかりで…」
「紫月、紫月は大丈夫だよ。俺がいなくたって平気だ」
「…そんなこと」
「ほら、紫月にはあんなに仲間がいるだろ」
「…えっ」
俺の声で、紫月は後ろを振り返った。
俺と紫月の目線の先には、楽しそうに笑う4人の仲間がいた。
「…公共の場でなにイチャついてんの」
赤羽がそう言ったとき、またみんなが笑う。
あーあ。
こんなことされちゃ本気で行きたくなくなる。
「…みんなどうして」
「俺らも城ヶ崎の車追っかけてタクシー乗ったんだ」
「間に合ってよかった」
山岡と新山がそう言う。
「ほら、大丈夫だろ?紫月」
俺がそう声をかけると、紫月はまた涙を流してしまった。
もう紫月は一人なんかじゃないから。
「…桜庭くん、アメリカ行っても元気でね」
「ちゃんとお土産持って帰って来いよ」
「浮気なんてしたら私が許さないんだからね」
「絶対理央のこと超えてやるから」
みんなの言葉に喉の奥が苦しくなるけど、紫月の前くらい最後はカッコいいとこだけを見せたい。
いつも弱い俺ばかり見せていたから。
「…あぁ、みんなありがと。紫月のことよろしく」
俺はそう言って、隣でずっと泣いてる紫月の頭に手を置いてポンポンとする。
もう触れられなくなる。
一緒にいられなくなる。
多分、俺の方が紫月に会えなくなることに不安しかないけど、今なら頑張れそうだから。