一匹少女が落ちるまで
「理央」
後ろから父さんの声がする。
あぁ、もう行かなきゃ。
「……必ず、迎えに来るから」
「…うぅ…理央」
「ハハッ。紫月、すげー泣き虫」
「うるさいっ」
彼女はそう言って、俺の胸を軽くぐうで殴った。
そんな弱すぎる拳を俺はギュッと捕まえた。
「…山岡にちゃんと見張り頼んでるから」
「え?」
「俺のこと忘れて風間先輩といちゃついたりなんかしたらマジで泣くから」
「……ふふっ」
今日初めて紫月が笑った。
「…じゃあね、紫月。絶対に迎えに来るから」
絶対さよならになんてしないから。
「…必ずお土産持って帰ってくるから!」
俺はみんなにもそう言ってから
涙が流れる前に
みんなに背中を向けて、紫月の手を離してから────
搭乗口に向かって歩いた。
「理央っ!」
「桜庭!」
「桜庭くんっ」
みんなの声が聞こえ、振り返ると大きく手を振ってるみんながいて。
自分を変えることができて、
本当の友達ができたのは
変えようと思わせてくれた紫月のおかげだよ。
紫月はもう涙を流していなくて、一生懸命こっちに手を振っていた。
本当は走っていってまた抱きしめたいし、好きだと伝えたい。
でも、何度やったってきっと足りないと思うから。
また帰ってきたときに。
紫月が嫌がるほど可愛がってやる。
「…よかったな、理央。いい仲間ができて」
前を歩く父さんが、嬉しそうにそう言ったので
「うん。最高の仲間だよ」
俺は、自信を持って力強くそう言った。
みんな、本当にありがとう。
俺はたくさんの感謝を胸に、
飛行機へと向かった。