一匹少女が落ちるまで
【side 理央】
生意気だ。
雨宮紫月のくせに生意気だ。
クラスの底辺のくせに。
でも不思議と、紫月に何を言われても平気な自分がいる。
というか、紫月にズバズバとはっきり否定されるたびに心のどこかでホッと安心している。
バスケ部の奴らに自分を否定されたときは、すごく胸が痛かったのに。
「時計の針」
「え?」
紫月が突然ボソッと言ったので聞き返す。
「長針と短針が逆になってます」
紫月はそう言って、俺の前に広げられていた絵本のイラストを指差した。
「あ…」
「苦戦しすぎですよ、たかが間違い探しで」
紫月はそういうと、少しだけ口角をあげた。
──────トクン
そして、そう静かに俺の胸が鳴った。