一匹少女が落ちるまで
「理央は、ここにくるのは暇つぶしだと言った。暇つぶしなら、私のそばじゃなくても十分できるはずですが?」
紫月は本から目を話さないままそう聞いて来た。
そんなこと、俺だって思ってる。
だけど、もう遅い。
「…無理」
「無…理?」
「…紫月の隣が一番落ち着くって知っちゃったから、紫月の隣以外なんて無理だよ」
俺は正面の仕切り板を見つめたままそう言う。
紫月の隣では、素に近い俺でいられる。
紫月の隣では、完璧な桜庭くんを演じなくていい。
それがすごく楽で。落ち着く。