島…君をレンタルしたいカナ
(もういい。今日はもう帰って、また出直してこよう)


何だかいろんな意味で疲れきってしまった。
持ち合わせてもないのに変な波動を送ったせいかもしれない。


カウンターの脇を通り抜けて、島さんに何も言わずに帰ろうとした。
きっとお客さんと話し中で、私のことなんて見てないと思った。


「……待って!帰るの?」


声と同時に左手首が握られた。
体は半分くらいカウンターの外に出てる状態で、ドキッとして振り返れば、島さんが真面目な顔で見てる。

さっきまで話してたお客さんはもういなくて、私は彼のことを少し見てから目を伏せた。


「忙しそうだからまた来ます。明日はちょっとムリだけど、明後日も遅番だから……明々後日になると思いますけど」


それじゃ…と言いながら前を向いて歩き出そうとした。
なのに、ぎゅっと握ってくる手の感触に驚き、何だ?と思い振り向いた。



「帰らないで居なよ。どうせもうすぐ閉店の時間だし」


彼の反対の手が壁の上にある時計を指差す。
それを見てると確かに閉店まで三十分もない。


「送って行くから。話もあるし」


「話?」


「うん」


「ヨーコ」のこと?
それとも元カノのこと?


被害妄想が拡大し過ぎて、すんなり「了解」と言えずに黙り込んだ。

だけど、それを彼は「いいよね?」と肯定として受け取り、向こうで待ってて…とカーテンの奥を指差した。


< 104 / 157 >

この作品をシェア

pagetop