島…君をレンタルしたいカナ
自分のことのように自慢してる。
事務職だけど、印刷の仕事も好きみたいだ。


「これ、何処の本屋に持って行くんですか?」


「ああ、そうだった。ごめんごめん」


笑いながらデスクのビニールシートの下から店名と住所の書かれた紙を抜いた。
「此処に」と差し出してくる紙を受け取り、思わず目が点になった。


「ココ……」


見たことのある書店の支店名が記されてある。
咄嗟に行きたくない!と思ったけど、引き受けておいて行かないとは今更言えない。


「大崎さんの勤めてた本屋の支店だろう。場所も知ってると思うから宜しく頼むよ」


「……はい…」


ぐっと唇を噛んで堪えた。
数ヶ月前の顔を思い浮かべ、紙を持ったままぎゅっと手に力がこもる。


大丈夫だ。
行ったからといって、必ずしも顔を合わせるとは限らない。
書店の開店時間は長いんだから、勤務中ではないことだってある。

もしも万が一出会ったとしても、無視しておくか平然としておけばいい。
もう関係もない人なんだから、私は堂々としてればいいんだ。



(うん…)


そうだ…と心に強く思って写真集を袋に入れた。
書店名の書かれた紙は上に貼り付け、十時がくるのを待ちながら仕事を続けた。



壁時計が十時のメロディを流し、私はノロリ…と椅子から立ち上がった。


< 147 / 157 >

この作品をシェア

pagetop