島…君をレンタルしたいカナ
「それじゃあ、行ってきます」


秋元さんの方へ振り向けば、「頼むよ」と笑顔で言われる。
短く「はい」と答えた後、ロッカーに掛けてるスプリングコートを羽織って外に出た。



ーーーあの日はとても寒くて、身も心もお財布すらも寒くて縮こまってた。
だけど今は春も近くて暖かで、心だって満たされててお財布も空ではない。


あの日とは全てが違う。
なのに、私の気持ちはどうにも浮かない。


自分ではなく、別の人が選ばれた。
その人は今から行く店に居るんだろうか。


どんな感じの人かを考えるのもイヤだった時期がある。
自分よりも美人だったり可愛かったりするんだろうかと思うと胸が痛くて仕方なかった。


書店に向かう道すがら、島さんから入ったメッセージを読み返した。
楽しそうに仲間と飲んでる写真が添付されていて、『今日はごめん』と謝ってた。


私と二人だけの時とはまた違う顔をしてる島さん。
彼には彼だけの世界があるんだと思うと、何だか切なくて泣きそうになる。


私はやっと正社員の仕事に就いて、これから皆の役に立てるような仕事をしていこうと思ってる。

だけど、心の隅ではまだ諦めきれない思いが残ってて、その思いを敢えて考えないようにしてる。


それが叶うのかどうかもハッキリしない。

島さんの言葉通りなら信じてもいいとは思うけど、自分の中には自信も何も生まれてこない。


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