島…君をレンタルしたいカナ
早々とランチのパスタを食べ終えた人は、向かい側から覗き込むようにして顔を見上げる。


見られてる私の名前は、大崎花奈(おおさき かな)

大学時代の就活に失敗し、今はパートとして書店に勤務する二十五歳。
時給八百五十円。労働時間は六時間。週に四日から五日働いても、社保を払えば手取り額は僅かになる様な仕事をしてる女だ。


こんなダメダメな私を「可愛い」とか「好きだ」と言ってくれた彼は長谷川真(はせがわ まこと)君と言う。

二つ年上で、先月まで同じ店で働いてた正社員。今は異動して別の支店で勤務中。


その彼の顔を睨むようにしてジィ〜と疑いの目を向ける。
顔色も変えない人が、もう一度同じ言葉を言いだす前に、とっとと拒否してしまおう。



「や…やだなぁ、マコト君。いきなり何の冗談?」


カチャカチャと皿の上にフォークを立ててかき回す。
右回りに回転させながらトマトクリームソース味のパスタを数本巻き付け、心の何処かでは狼狽えてくるのを何とか必死に耐え抜き、引き攣る頬の肉を引き上げた。


「冗談じゃないよ。本気で言ってるんだ」


強張った彼の表情と硬い声色を窺い、もう一度だけ「嘘ぉ」と抵抗。

次第にフォークを持つ手が痺れるように力が抜けていくのを感じながらも、何とか掬い上げたパスタを口の中に放り込んだ。


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