行雲流水 花に嵐
「最近お前、牢人と出会ったな。あいつはどうした」

 いきなりな質問に、竹次はきょとんとした。

「女言葉を遣う野郎だよ」

「あ! 片桐の旦那か」

「大方あいつに俺を斬るよう依頼したのだろう。お前や先の奴らじゃ、相手にならんからな」

「あ、あんた、片桐の旦那の知り合いか……」

「遊女屋に牢人がいりゃ、用心棒だと察しはつく。用心棒なら俺を狙うのだって至極当然だろ。お前を襲っておすずを取り戻したのだし」

 一般論として、宗十郎は言った。
 まだ片桐がこちら側だとバラすわけにはいかない。

---それにあいつだって、俺を斬れと言われりゃ喜々として向かってくるだろうしな---

 三度の飯より戦いが好きな奴だ。
 相手が強ければ強いほど我を失う。
 口実さえあれば、宗十郎を討つことだって厭わないかもしれない。
 そういう奴だ。

「そんなことを聞いてるんじゃねぇ。奴はどこにいる」

「か、片桐の旦那は、その特別座敷に行ってまさぁ」

 それはわかっているのだ。
 宗十郎が知りたいのは、その先である。

「嘘つくんじゃねぇよ。奴は牢人だろうが。単なる用心棒が、何でそんなお大尽が行くようなところに行けるんだ」

 軽く竹次の腹を蹴りながら言うと、竹次は、キッと宗十郎を睨んだ。

「あ、あんたがおすずを攫ったから、大親分のヤサを移すとかで、多分その護衛だろ」

「初めにおすずを攫ったのぁお前だろうが」

 どかっと腹を蹴ると、竹次は呻き声を上げて丸まった。

「亀松のヤサを移すだと? 特別座敷自体を、どっかに移すのか?」

「座敷全部を移すかどうかはわからねぇ。けど女を移すとか言ってたから、そういうことじゃねぇのか、と思っただけだ。女がいなくなれば、遊女屋の意味がねぇだろ」

 う~む、と宗十郎は竹次に足をかけたまま考えた。
 竹次の情報は、片桐から聞いたものと大して変わらない。
 大して役に立たないことばかりだ。
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