行雲流水 花に嵐
「……使えねぇ奴だな」

 ぼそ、と言い、宗十郎は刀を構えた。
 びく、と竹次の身体が強張る。

「お前はその移動先を知らねぇんだな?」

 特別座敷の場所も知らない竹次だ。
 移動先も知らされていないだろう。
 案の定青い顔のまま、竹次はこくこくと頷いた。

「特別座敷の女たちにも、会ったことはねぇのか」

「あ、ああ。稀に色町の見世からそっちに移る女もいたみたいだが、俺は知らねぇ」

「なのにおすずをそっちに入れようとしてたのか?」

「だから、あいつは俺のことを探ってたし、あのままにしてちゃヤバいと思ったんだ。勝次兄ぃに言ったら、だったら座敷のほうに連れて行くって……」

「殺っちまえとは言われなかったのか」

「女子は使い道があるから。あいつは見た目もそれなりだし」

 そうかね、と心の中で呟き、宗十郎は足元の竹次を見下ろした。
 己を探っている、とわかった時点で、そのような女子は始末したほうがいいのではないだろうか。
 そうしなかったのは、おすずに未練があったからか。

「けど、あいつはもう用無しだ」

 竹次が、憎々し気に言う。
 想いが強ければ、その分憎しみも倍増するらしい。
 宗十郎を始末した後、おすずのことも殺す予定だったのか。

「最後の質問だ。お前、亀屋で小せぇ子供を見なかったか」

 静かに言った宗十郎に、何か感じたように、竹次の顔が引き締まった。
 しばしの沈黙の後、つ、と竹次の額を冷や汗が流れる。

「……子供?」

「ちょっと前から、武家がよく亀屋に登楼してたろう。何とか言う亀屋の太夫に入れ込んでた奴だ」

「あ、ああ……。確か、上月家の若当主とか」

「そいつの子供だよ」

「そのガキは、勝次兄ぃに言われて、俺が攫った」

「ほぉ。で、どこにやった?」

 竹次が犯人なら、簡単に裏が取れそうだ、と思ったが、意外に竹次は首を振った。

「それが、どこぞの商人みてぇな野郎に邪魔されたんで」

「何だと?」

 思いもよらない展開だ。
 まさか、太一を攫ったのは亀屋とは全くの別口か?
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