行雲流水 花に嵐
「そんな奴に負けたのか」

「ガキがそいつのほうに行きやがったしよ。周りに人も集まってきたしな」

 竹次は若いが、いかにも遊び人といった風体だ。
 まともな職についているとは思えない、一目で破落戸とわかる荒んだ雰囲気を持っている。

 そのような者、いかに太一が幼くとも、おいそれとついて行かないだろう。
 無理やり連れ出したに違いない。
 そこに人の好さそうな親父が助けに入ると、迷わず子供はそちらに走る。

「その初老の男も、亀屋の奴か?」

「あんな奴知らねぇ。言ったろ、色町の住人にゃ見えなかった」

 竹次がむきになって言うが、下っ端の言うことなどあてにならない。
 亀松一家全員など知らないだろう。

「けど、言われてみれば、失敗したのにそれからはガキについて話はなかった。どいつか、別の奴が成功したんだろうけど」

 竹次が悔しそうに言う。
 勝次から命じられたことを、自分は失敗し、他の者に手柄を盗られたことが気に食わないらしい。

---ほんとにこいつは、大して役に立たねぇな---

 宗十郎の知る限り、竹次は命じられたことを何一つこなせていないことになる。
 強いて言えば、おすずを捕まえたことぐらいか。
 ヤクザ組織の末端など、そんなものかもしれないが。

「結局お前は、その捕まえられたであろう太一のことも、どこにいるのかも知らねぇんだな」

「ああ。でも亀屋ではないはずだ。俺は大概あそこに泊まり込んでるが、そんなガキ見たこともねぇし、それらしい感じもなかった。元々ガキを連れてこれたら、亀屋じゃなく三条大橋に来いって言われてたしな」

「そうかい」

 宗十郎は、そう言って立ち上がった。
 刀が目の前から離れ、竹次が、ほっと息をつく。

「お前が知ってるのは、それが全てか」

「ああ、全部喋ったぜ。なぁ、俺を要蔵親分のところで使ってくれねぇか」

 竹次が、媚びるような目で宗十郎を見て言った。

「このまんまじゃ、下手に帰っちゃもう俺の身が危ういんだ。おすずを逃がしたってんで、兄ぃの心象もかなり悪いしな……。これであんたを討てば、まだ挽回できただろうがな、残念ながら、俺じゃ敵わねぇ」
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