行雲流水 花に嵐
第十一章
 船宿に逗留して二日。
 すっかり玉乃を手懐けた片桐は、大分ここの様子を探れていた。

---あとは実際の遊女部屋だけなんだけど---

 ここが最も重要なのに、なかなか上手くいかない。
 玉乃は片桐の言うことは基本的に何でも聞いてくれるが、遊女部屋が見たい、ということには良い顔をしなかったのだ。

 もっともまだ寝物語にさらっと聞いてみただけで、詳しく聞いたわけではない。
 が、玉乃は遊女部屋に片桐をやりたくないらしく、その話には乗って来なかった。

 おそらく他の女子の目に片桐を曝したくないのだろう。
 何せ片桐の見た目は抜群に良いのだ。
 己に自信があっても、他の女にちょっかいを出されるのは気に食わない。

---玉乃をもっと骨抜きにしてやるわ---

 何なら玉乃を完全にこちら側に引き入れるつもりで、片桐はこの日、ずっと玉乃を傍に置いていた。

「ねぇ片桐様。いつまでここにいてくれるの? そのうちどっかに行っちゃう?」

 これ以上何をしなくてもいいぐらい、すでに玉乃は片桐に惚れ込んでいる。

「さぁねぇ。目的を果たしたら、用はないわねぇ」

 ぷかぁ、と煙管をふかせる片桐に、玉乃はがばっと抱き付いた。

「やだよ。玉乃を置いて行かないで」

「とはいっても、玉乃ちゃんはここから出られないじゃない。あたしだって玉乃ちゃんとは離れたくないのよ?」

「じゃ、ずっとここにいてよ。玉乃はもう、片桐様がいないと生きて行けない」

「こんなところにずっといるのはご免だわぁ。あたしはやっぱり、こういうのどかなところは合わないの」

 素っ気なく言う片桐に、玉乃は泣きそうな顔になった。
 幼い頃からずっとここで男を手玉に取って来たのだろうに、やけに必死だ。
< 110 / 170 >

この作品をシェア

pagetop