行雲流水 花に嵐
---上が外れるというのは、押し入れの中がくさいわね---

 一旦刀を降ろし、片桐は部屋の奥の押し入れを開けた。
 中には布団が入っている。
 本当に、単なる船宿のようだ。

 片桐は押し入れの二段目に足を掛けると、よいしょ、と身体を持ち上げた。
 押し入れ内であれば、梯子がなくても天井まで届く。

 手の平で慎重に天井を押していくと、ある一点で板が浮く感触があった。
 そろりと板を動かしてみると、暗い空洞が広がる。

 片桐は押し入れの二段目に上がり、ぽかりと開いた四角い穴を覗いてみた。
 どうやらそこは、二階と三階の間の空間だ。

---まぁ、いきなり三階ではないわよね---

 そのままじっくりと空間を観察する。
 四つん這いであれば、動き回れる広さだ。

 ちらりと片桐は、部屋の中に視線を戻した。
 玉乃は起きる気配なく眠りこけている。
 先程散々疲れさせたので、そう簡単には起きないだろう。

 三階の女たちも、変に起きていて騒がれても困る。
 眠っているであろう今のうちに探ってしまおうと、片桐は押し入れの二段目に立ち上がると、穴に両腕を突っ込んで、肘で身体を支えつつ間の空間に入った。

「うげ。あ~あ、あたし、こんな汚いところに入り込むの好きじゃないのに~。こういうことは宗ちゃんがやるべきよねぇ」

 ぶつぶつと文句を垂れながら、片桐は二階と三階の間をずりずりと這いずって行った。
 三階は仕切りのない大部屋だという。
 すぐに頭上に人の気配を感じた。

---ふむふむ、この辺りで皆寝てるわけね---

 そのままそろそろと移動しようとし、ふと思い止まった。
 このまま進めば出入り口近くになる。
 そこに見張りがいると危険だ。
 そう手練れがいるとも思えないが、床下の気配を察知するかもしれない。

---灯りもないし、とりあえずこれ以上は進まないほうがいいわね---

 そう判断し、片桐はくるりと反転し、もう一度聞き耳を立てながら元の位置まで戻った。
 押し入れの上まで移動し、そこで片桐は、念のため頭上に手を当てた。
 頭の上の板を、持ち上げるように力を入れる。

---おっ?---

 若干板が浮く感覚がある。
 が、その上に何かが乗っているようだ。
 片桐は伸び上り、天板に耳を押し付ける勢いで上の様子を窺った。

---……誰かが、ここで寝てる---

 なおも息を詰めて様子を窺ったが、生憎動きはなかった。
 ふむ、と一つ頷き、片桐は押し入れから出て身体を払った。
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