行雲流水 花に嵐
「それよりも。昨夜嫌な使いが来てな」

 膳を持ってきた小者がさがってから、亀松が口を開いた。

「何つったかな、勝次の手下の、今回下手打った奴が殺られたらしい」

「ん~? 竹ちゃん?」

「そんな名だったかな。今朝がた三条河原で見つかったってよ。そいつの使ってた若いのも二人見当たらねぇらしい」

「ほ~。竹ちゃんといえば、えらくご執心の女子に逃げられたんだったわねぇ。じゃ、その女子が町方に駆け込んだの?」

「いや、町方だったらいきなり斬ったりしねぇだろ。女を奴から救い出したのぁ牢人だっていうしな。勝次がその牢人と女を始末するよう指示したって言ってたし、返り討ちにあったってこったな」

 あらら、と片桐は肩を竦めた。
 やはり宗十郎のほうが、早く乱闘に巻き込まれている。

---まぁ相手が竹ちゃんと、さらにその下なんて、面白くもないだろうけどね---

 だけどいい加減、片桐も籠っているのに飽き飽きだ。
 早く大暴れしたい。

「あ~あ。あたし、その牢人を斬るよう頼まれてたのに。情報聞き出す前に殺られちゃったんじゃ駄目じゃない」

「そうさなぁ。その竹の奴が、どれほどこっちの情報を漏らしたかにもよるしな。牢人が何者かもわからねぇ。始末するに越したことはねぇなぁ」

 亀松が、顎を撫でながら考える。

「あたし、一回帰るわ。あっちの見世で何か掴んでるかもだし」

「それなら勝次を呼べばいいぜ」

「それよりこっちから動いたほうがいいかも。向こうで始末をつけられれば、そっちのほうがいいでしょ。まだここのことは漏れてないかもしれないし。勝次親分を呼び出して、万が一後でも尾けられたら、ここが割れるわよ」

「うむ……」

「その前に、玉乃ちゃんとの逢瀬を楽しませて頂戴」

 いそいそと言う片桐に、亀松は苦笑いをこぼした。

「全く旦那は元気だねぇ。今は今朝のことで大方向こうの見世に行ってるから、舟を手配するのも、ちょいと時がかかるしな。わかったよ、昼時までゆっくり楽しんでくれ」
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