行雲流水 花に嵐
 ぱんぱん、と手を叩くと、すぐに男衆が飛んでくる。
 亀松に指示され、すぐに玉乃を連れて戻って来た。
 玉乃は嬉しそうに、片桐の胸に飛び込んで来る。

「じゃ、ごゆっくり」

 元の福相に戻り、亀松が腰を上げる。
 そして男衆と共に、部屋を出て行った。

 それを目で追っていた片桐だったが、不意に玉乃が、ぱっと立ち上がった。
 今しがた亀松が出て行った襖に取り付くと、そろりと襖を細く開ける。

「玉乃ちゃん?」

 片桐が言うと、玉乃はしばし廊下を窺った後、襖を閉めて戻って来た。

「片桐様、どこか行くなら、玉乃も連れて行って」

 片桐の前に手をついて言う。
 玉乃は片桐のためなら、脱走も厭わないらしい。
 店の者に聞かれるとまずいので、誰もいないことを確かめたのだろう。

「嬉しいわぁ。本気なのね?」

 抱き寄せると、玉乃は片桐に抱きついてくる。

「そんなに必死に引っ付かなくても大丈夫。そこのところは、あたしも考えてるわ」

「ほんとっ? 片桐様、玉乃を連れて逃げてくれる?」

 ぱ、と嬉しそうに言う。

「そうね。逃げるってのは好かないけど。あたしがここを去るときは、玉乃ちゃんも連れて行くわ」

「嬉しい! 約束よ?」

 がばっと抱き付いてくる玉乃をあやしながら、片桐は押し入れを見た。
 帰る前に、あの上を調べなければ。

「あのね、玉乃ちゃん。ちょっと気になってたんだけど。三階にも押し入れってあるの?」

「え? 何で?」

 いきなりな質問に、玉乃が怪訝な顔をする。

「だって昨夜、何だか物音がしたんだもの。調べてみたけど別に何もなし。でも上が気になったの。もしかしたら三階にも同じ位置に押し入れがあって、その中に何かあるのかなって」

「確かに三階にも、あそこに押し入れがあるけど」

 玉乃が少し言いよどむ。
 何か知っていそうな顔だ。
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