行雲流水 花に嵐
「旦那は全く、若ぇのに欲がねぇ」

「欲があるから、辻君を抱くのさ」

 呆れたように言う要蔵に、宗十郎は、ふふ、と笑って杯を空けた。

「それで結局、どうして欲しいと言って来たのだ。上月の馬鹿当主から手を引かせればいいのか?」

 杯を置き、宗十郎は話題を戻した。
 要蔵の目がきらりと光る。

「いや、この機会に、亀屋を潰す」

 ちょっと宗十郎は意外そうな顔をした。

「いきなりか? 今回のことは、単なる馬鹿当主の過ぎる遊行なだけだろ?」

「それがなぁ、それだけじゃねぇのよ。そもそも亀屋は、わしの知らんうちに裏にできてやがった」

 忌々しそうに、要蔵が言う。

「親分の知らねぇうちにかい」

 ここの色町を仕切っているのが要蔵だ。
 色町というところは特殊で、お上の法より土地に根付いた法が強い。

 色町には奉行所の代わりに町を仕切る親分がいる。
 各見世は何かにつけて土地の親分に付け届けをし、何かあれば守って貰う。
 土地の親分というのは、相当実入りがあるのだ。

 が、当然何か起こったときには、何があっても駆けつける。
 土地の治安も守らねば、町自体が潤わない。

 町全体を守れる度量と人望を兼ね揃えていないと、色町など仕切れないのだ。

「親分が知らねぇってことは、法に外れてるじゃねぇか」

「そうよ。裏路地は、まぁ治外法権と言ってしまえばそうなんだがな。いくら裏でも、ちょいと派手過ぎてな」
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