行雲流水 花に嵐
 傍らの刀を掴んで言う宗十郎に、片桐が片膝を立てて身構える。
 要蔵が、慌てて二人の間に割って入った。

「ま、まぁ落ち着いて。今回の件が収まったら、一度表の見世に案内しまさぁ」

「そりゃありがてぇ」

 宗十郎が、あっさりと刀を離す。
 その様子に、片桐は息をついた。

「全く。あんなにあんたを想ってるおすずちゃんを裏切るのね」

「お前が上級遊女は違うっつったんだぜ。味わってみてぇと思うのが男だろ」

「そういうところが、節操ナシだっていうの」

「何とでも言え。お前だって嫌いじゃねぇくせに」

「ま、いいわ。あたしもさっさと戻りたいし。で、どうする?」

 珍しく、片桐がさっさと軽口を打ち切り、本題に戻った。

「坊をこっそり連れ出すのは難しいかも。三階にも見張りはいるみたいだし。ただ、人数はいないと思う。出入り口に一人程度と見たわ。子供といっても六つ程度だったら暴れられたら厄介だし、やっぱり知った宗ちゃんがいたほうがいいでしょうね」

「そうさな。敵陣に乗り込むんだ」

 要蔵も、一家の頭の顔になって頷く。

「亀松側も、竹ちゃんが殺られたことで動きがあるかもしれない。ここに来る前に亀屋を見て来たけど、勝次が何か忙しそうだった」

「動くか。上月の家への強請の仕上げかな」

 そろそろいい加減身代金を巻き上げて、とんずらしたいところだろう。
 太一を攫って半月。
 もし上月の誰かが奉行所に訴えていれば、手入れが入るかもしれない。
 一応上月家は武家なので、体面上そんなことは出来ないとは思うが。

「よし。じゃあさっそく伏見へ入るか」

「そうね……。一般客がいたとしても、あそこじゃそう何人もいないでしょう。そういや今は、亀屋に人をやってるって言ってたから、船宿を襲うなら皆が帰って来ない今のうちがいいわ。こっちもそんな人数いらないでしょ。あたしと宗ちゃんでいいわ」

 ちょっと心配そうな顔をした要蔵だが、遣い手となるとこの二人ぐらいしかいない。
 逆に言うと、この二人さえいれば何人もいらないのだ。

「わかった。じゃあ深夜のうちに伏見に下るか。寅の刻に、三条河原だな」

 そう決めて、片桐と宗十郎が立ち上がろうとしたとき、母屋のほうから慌ただしい足音が聞こえてきた。
 すぐに文吉が飛び込んで来る。
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