行雲流水 花に嵐
 それから半刻後、宗十郎は上月家の離れにいた。
 家を出てから、こうも連続して訪れたことがあっただろうか。

 渋い顔で座る宗十郎の前には、同じように渋面の父が座っている。
 もっとも会いたくない義母は、太一に続き仙太郎までいなくなったことに倒れてしまったらしい。

「……全く……」

 何度目かのため息をつき、父がいらいらと腕組みの腕を揺する。
 この人も老けたな、と、宗十郎は無感動に前の父親を眺めた。

「この上、まだ金を吊り上げられるのか……」

 忌々しそうに言う。
 単なる町人に振り回されること自体が恥であるのに、最早身代も危うい。
 仙太郎の身代金まで要求されては堪ったものではないのだ。

「とりあえず、明日未明にそれがし、太一救出に向かいます。依頼料の残金の捻出をお願いしますよ」

「明日までにか?」

 渋い顔で、仙右衛門が言う。
 無慈悲に、宗十郎は頷いた。

「こちらとしても、敵の懐に潜り込むので命懸けなんでね。まぁ以前にお梅さんが多少工面してくださいましたので、残り二十両ってところですか。何とかなるでしょう」

「お梅が?」

「子のためであれば、何とかするのが母親です」

 仙右衛門が黙る。

「ま、残金は太一と引き換えですので、明日失敗したら多少期限は延びますが。とりあえず、太一が戻るまで、下手に動かないでくださいよ」

「いや、仙太郎の件もある。そちらはどうするつもりなのだ」

 先程から太一のことしか口にしない宗十郎に、仙右衛門が顔を上げた。
 が、宗十郎は、は? という顔をする。

「それがしが受けたのは仙太郎の作った不当借財の整理と太一の救出だけですが」

「せ、仙太郎が亀屋に囚われているのだぞ」

「それはまた別件でしょう。囚われたといっても自ら行ったのだし、知ったことではありませんよ」

 傍らに置いていた刀を掴み、宗十郎は腰を上げる。

「あ、兄が窮地に陥っているのだぞ!」

 驚いたように言う仙右衛門だったが、宗十郎はそんな父に冷たい目を向けた。

「……追加料金を頂ければ、仙太郎だって助けてやりますよ。親分に話をつけてください」

 事務的に言い、宗十郎は実家を後にした。
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