行雲流水 花に嵐
 有事の折りに守って貰うには、それまでの袖の下が必須だ。
 要蔵だって無償奉仕するほどお人好しではない。

 大きなヤマなら別途頼み賃が必要だが、よくある小競り合い程度ならお願いすれば治めてくれる。
 だがそれも、普段の心付けあってのことだ。

 ただ裏路地にある小さく汚い見世に関しては、よほどのことがない限り放置である。
 裏は曰くつきの見世が多く、料金も安いため、付け届けもままならない見世が多いのだ。

「病気とか、歳とかで表の正規見世から転げ落ちた女たちならまだしも、ありゃあ、ちょいと目に余る。表と変わらんぐれぇの見世構えでな、見世自体もでけぇ」

「……何でそんな見世が、裏に?」

 そこまでの見世を開けるなら、表のほうが儲かりそうだが。
 裏路地は、よほどの事情がないと、男も足を運ばない。

「どうもなぁ、じわじわこの色町を、乗っ取ろうとしてるように思うんだな」

 かつん、と煙管を煙草盆に打ち付け、要蔵が渋い顔をする。

「乗っ取るたぁ、穏やかじゃねぇな。堅気の奴じゃねぇのかい」

「やり方がな、ちょいと荒っぽいのよ。いきなり表にあんな見世出しゃ、わしらが一気に潰すぜ。ま、表に見世出すなら、わしに一言もなくってのは無理だがな」

「ふーん、まぁそうだが。しかし、今まで気付かなかったのもおかしいな」

 そんな派手な見世が裏でもできれば、いやでも目立ったろうに。
 表通りと裏通りの間の、中町にある飯屋の誰かが要蔵に知らせてもいいようなものだが。
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