行雲流水 花に嵐
「初めは大人しかったのよ。見世もでかいが、見てくれがまぁ怪しげなんでね、裏だし、また怪しい見世ができたとしか、誰も思わんかったらしい。それがここ最近になって、ちらほら被害届がな」

「被害届? 客からか?」

 要蔵のところには、色町の見世からだけでなく、お客からの依頼もある。
 治安や経営に関することを一手に引き受けているのだ。

「見世の者がなぁ、恐ろしいようなんだ。一旦見世に入ったが最後、有無を言わさず高ぇ酒を飲まされるわ、膳は頼まれるわ。しかもなかなか帰してくれないようで、全体の料金も跳ね上がるんだとよ」

「ほー。内容はさして珍しくもねぇが、ちょいと度を越してるってことか」

「ああ。その上その界隈を人が避けるようになったら、表通りまで出て来て客引きするんでなぁ、このままじゃ色町全体から皆足が遠のいちまうだろ」

「なるほど。で、そんなあこぎな商売する奴が、親分に何も言わねぇで、シマを荒らしてるってことか」

「そうよ。こりゃ立派なシマ荒らしだぜ。噂じゃ上州で鳴らしたヤクザ者が、この色町の上がりに目を付けたらしい」

「放っとけねぇな」

 シマを奪われるということは、土地を追われるということだ。
 要蔵に厄介になっている宗十郎も、路頭に迷うことになる。

「ん? でも今回の依頼は、そんなでかいものなのか? 上月の家からの依頼だろ?」

 裕福でもない貧乏武士の依頼では、大方亀屋に無理やり引っ張り込まれた金の都合に困っている、とかいうちゃちいものではないのか。
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