行雲流水 花に嵐
「何なの」
「ガキが逃げやがった」
ぜぃぜぃと肩で息をしながら言う亀松に、片桐は何のことやらわからない、というように眉を顰めてみせた。
ここに子供がいることなど、片桐は知らないはずなのだ。
「借金の形に預かってるガキがよ、勝手に逃げやがったみてぇなんだよ」
「へぇ? どこにいたのよ、そんな子」
「上だよ! 三階だ」
亀松が息を整えている間に、先の小者が廊下の端に梯子を掛ける。
よろよろと、亀松は梯子に取り付いた。
その後ろ姿を眺めていると、背後で、ばきん、という音と、小さい悲鳴が聞こえた。
瞬時に片桐は踵を返し、部屋にとって返す。
そして真っ直ぐ窓に駆け寄った。
縄を通していた格子が折れている。
下を覗くと、玉乃が藁の中に倒れていた。
「旦那、何だ、今の音は」
小者が部屋に駆け込んでくる。
亀松は三階に上がったままらしい。
「あっ? 旦那、玉乃がいねぇ!」
きょろきょろと部屋の中を見回し、小者は開いた窓に目をやった。
そして折れた格子に気付く。
「そこからか! 玉乃が逃げやがった!」
叫びながら、小者が窓に駆け寄った。
すかさず片桐は、刀を一閃させた。
び、と刀が、小者のうなじを打つ。
鞘ごとなので首が飛ぶことはなかったが、小者はその場に昏倒した。
そのまま片桐は身を翻し、部屋を駆け出していく。
亀松が三階にいる今が好機だ。
梯子ではそうそう早く降りられまい。
ここで亀松を討ち取ってもいいのだが、奴の腕のほどは未知なのだ。
人数も、少ない、と思うだけで、実際何人いるかはわからない。
これは要蔵からの指令であって、仕事なのだ。
下手にやり合って計画を潰すわけにはいかない。
階段を駆け下りると、戸口前に子分が二人いた。
「おっ? 旦那、どうしなすった」
どうやらこの二人は、何があったかまだ知らないらしい。
ならば通り抜けることも可能だろうと、片桐はそのまま二人の脇をすり抜けて外に出た。
そのまま脇道に走り込む。
路地の先に、人影が見えた。
「片桐様!」
先にいた玉乃が、振り向いて手を振る。
「宗ちゃん、手筈通り舟へ」
走りながら片桐が言う。
言われなくても肩に太一を担いだ宗十郎は、立ち止まることなく先を急いでいる。
川沿いの道に出ると、船着き場を目指すことなく川べりに寄る。
少し下流に、文吉が舟を用意して待っていた。
「ガキが逃げやがった」
ぜぃぜぃと肩で息をしながら言う亀松に、片桐は何のことやらわからない、というように眉を顰めてみせた。
ここに子供がいることなど、片桐は知らないはずなのだ。
「借金の形に預かってるガキがよ、勝手に逃げやがったみてぇなんだよ」
「へぇ? どこにいたのよ、そんな子」
「上だよ! 三階だ」
亀松が息を整えている間に、先の小者が廊下の端に梯子を掛ける。
よろよろと、亀松は梯子に取り付いた。
その後ろ姿を眺めていると、背後で、ばきん、という音と、小さい悲鳴が聞こえた。
瞬時に片桐は踵を返し、部屋にとって返す。
そして真っ直ぐ窓に駆け寄った。
縄を通していた格子が折れている。
下を覗くと、玉乃が藁の中に倒れていた。
「旦那、何だ、今の音は」
小者が部屋に駆け込んでくる。
亀松は三階に上がったままらしい。
「あっ? 旦那、玉乃がいねぇ!」
きょろきょろと部屋の中を見回し、小者は開いた窓に目をやった。
そして折れた格子に気付く。
「そこからか! 玉乃が逃げやがった!」
叫びながら、小者が窓に駆け寄った。
すかさず片桐は、刀を一閃させた。
び、と刀が、小者のうなじを打つ。
鞘ごとなので首が飛ぶことはなかったが、小者はその場に昏倒した。
そのまま片桐は身を翻し、部屋を駆け出していく。
亀松が三階にいる今が好機だ。
梯子ではそうそう早く降りられまい。
ここで亀松を討ち取ってもいいのだが、奴の腕のほどは未知なのだ。
人数も、少ない、と思うだけで、実際何人いるかはわからない。
これは要蔵からの指令であって、仕事なのだ。
下手にやり合って計画を潰すわけにはいかない。
階段を駆け下りると、戸口前に子分が二人いた。
「おっ? 旦那、どうしなすった」
どうやらこの二人は、何があったかまだ知らないらしい。
ならば通り抜けることも可能だろうと、片桐はそのまま二人の脇をすり抜けて外に出た。
そのまま脇道に走り込む。
路地の先に、人影が見えた。
「片桐様!」
先にいた玉乃が、振り向いて手を振る。
「宗ちゃん、手筈通り舟へ」
走りながら片桐が言う。
言われなくても肩に太一を担いだ宗十郎は、立ち止まることなく先を急いでいる。
川沿いの道に出ると、船着き場を目指すことなく川べりに寄る。
少し下流に、文吉が舟を用意して待っていた。