行雲流水 花に嵐
第十四章
「とにかくあたしが様子を見てみるわ。まだ亀松から勝次に連絡は行ってないかもしれないし、だったら普通に中に入れる」

 伏見から帰って来て要蔵のところで仮眠し、明朝すぐに宗十郎たちは動いた。
 ぐずぐずしていたら、すぐに亀屋に連絡が行く。

 片桐のいた座敷で昏倒した小者を見つけたはずだ。
 それを亀松がどう解釈したか。

 単に太一と玉乃がいなくなっただけだと、片桐が飛び出して行ったのも二人を追うためだと思うだろうが、生憎部屋に『玉乃が逃げた』と叫んだ小者が倒れていた。
 大の男を一瞬で昏倒させるのは、女子には無理だ。
 片桐の仕業と見抜くだろう。

 となると片桐も玉乃と逃亡した、とわかるに違いない。
 太一と片桐の繋がりはわからないはずなので、動き出すには少しの間があるだろう。

 片桐たちが逃亡したのは日が暮れかかった頃だったので、亀松たちが行動を起こそうと思う頃には、すでに日が沈んでいる。
 亀屋に連絡しようにも、日が沈んだら舟は出せない。

 ということで、おそらく亀屋への連絡は朝になると踏んだのだ。

「とりあえず、見世の裏口を開けとくけど。まぁ中が騒がしくなったら適当に入れるところから入って頂戴」

 時間がないのはこちらも同じだ。
 とにかく仙太郎を探すのが先決だと、片桐は亀屋に入って行った。

「う~ん。とりあえず裏口に行くか。駒は親分を呼んでおいてくれ。文吉は一緒に裏へ」

 宗十郎が、身を屈めて亀屋の脇道に入って行った。
 その後ろを文吉がついて行く。

「とはいえ結局、俺たちだけで奴らを相手にするんですかい」

 文吉が匕首を握りしめて言う。

「片桐の旦那も、あっちで頭らを全部殺っちまえば良かったのに」

「あそこの女どもは、ちと厄介そうだからな……」

 亀松を慕っている女子たちの前で亀松を殺れば、いらぬ騒ぎに発展しそうだ。

「とにかく伏見の野郎どもが来ないうちに、こっちを討ち取るしかねぇ」

「それまで身が持ちますかねぇ」

 亀屋の内部に何人いるか、伏見以上にわからない。
 かなりの人数がいるとみていいだろう。
 それを、こちらは三人で迎え討たねばならない。

「奴らよりも、仙太郎が厄介かもだぜ。野郎、素直に戻るかね」

 もう病的に遊女に溺れている。
 案外ここにいることに満足しているのではないか。

「俺たちの金蔓だってのに、それは困りますなぁ」

「そうなったら、奴の入れ込んでる女を殺す」

 無表情で言い、宗十郎は様子を窺いながら、亀屋の敷地に入るための戸板に手をかけた。
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