行雲流水 花に嵐
 一方真っ直ぐ亀屋の正面から入った片桐に、帳場にいた男が驚いて飛び起きた。
 入口近くには見張り役が何人かいるのだ。

「あ、あれ旦那。こんな早くにどうしたんで?」

 うたたねしていたのだろう、男は慌てて目を擦り、近付いてくる。
 この分ではどうやらまだ亀松からの連絡はないらしい。

「いいから、あの上月の兄さんは、どこにいるの?」

「へ? ええっと……?」

「何日か前に、太夫使っておびき出したんでしょ? 蔵にいるとか聞いたわよ。どこなの?」

「ああ、あの旦那ですかい。……いやでも、何でです? 親分の指示ですかい?」

 少し、男の目に警戒の色が浮いた。

「この朝っぱらからあたしが出張って来てるんだから、緊急事態と思わないの? さっさと教えなって」

 苛々しつつも片桐が言うと、男は、へぇ、と頭を下げた。
 が、まだ不審げである。

「でもあの旦那が、何の関係が? 親分は別段変わらず上におられるし」

「あたしゃ大親分のところから来たのよ。勝次が知らないでも当たり前でしょ」

「だったらとりあえず、親分に報告しねぇと」

 男はそう言うや、た、と中に駆け込んだ。
 ち、と舌打ちし、とりあえず片桐はそのまま見世の奥に走った。
 今のうちに、裏口を開けておこうと思ったのだ。

 が、奥に行くにつれて、片桐の顔が引き締まる。
 いつもは見世の者である亀松一家の者が寝泊まりしているところでは飽き足らず、あらゆる部屋に男がいる。
 一家の者のほかにも、破落戸を雇っているようだ。

---でも数が多いだけじゃ、ここでは返って不利なのにね---

 建物内で戦う限り、複数人を一度に相手にする可能性は低い。
 場所によるかもしれないが。

---けど確かに人数が多いと、こっちも体力削られるわね---

 やはり的は何人かに絞ったほうがよさそうだ。
 この人数全員を皆殺しにするには、体力的にキツい。

 そんなことを考えながら裏口に手をかけたとき、背後に人の気配を感じた。

「旦那。何の真似だ」

「……この非常時に、戸締りはちゃんとしてるか確認したのよ」

 かかっていた心張棒を外すことなく、片桐は戸から手を離して振り向いた。
 勝次が、何人かの子分を従えて立っている。
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