行雲流水 花に嵐
「とはいえ、こんな三下に披露するのも惜しいわね。あんたたちなんて、刀抜くまでもないわ」

 ずいっと前に出るや、片桐はさらに二、三人を立て続けに倒す。
 しかも得物は先程吹っ飛んだ水甕の蓋だ。
 木なので、確かにそれで殴られれば痛いことは痛いが。

「ふ、ふざけるな!」

 勝次が怒号を発し、廊下を走って座敷の襖を開け放った。
 そこにいた男たちが一斉に立ち上がる。

「出番だ! やっちまえ!」

 勝次の合図で、金で雇われた無頼牢人たちが、刀を掴んで飛び出してきた。
 そのとき。

「おっと」

 片桐が何かを察し、いきなり脇に飛んだ。
 次の瞬間、先程まで片桐が背にしていた裏口が蹴破られる。
 片桐に向かってきていた男何人かは、吹っ飛んできた板戸の直撃を受けた。

「ちょっと宗ちゃん。お行儀悪いわねぇ」

 ちゃっかり水甕の蓋を盾に難を逃れた片桐が、裏口に立っている宗十郎に不満顔を向ける。

「うるせぇな。お前が裏口開けるっつったのに、開いてねぇから無理やり開けただけだ」

「ちょっとも『待て』出来ないのね。せっかちなんだから」

「蔵を見てから来ても開いてねぇ時点で遅すぎんだよ」

「蔵って……。見ただけ?」

 きょろ、と片桐が宗十郎の背後を見る。
 そこにいるのは宗十郎一人だ。

「お兄さんは?」

「開いてねぇんだから、連れてねぇ。鍵を貰いに来た」

 さすがに蔵の扉は蹴破れなかったようだ。
 蔵の戸は板ではない。
 蹴破れるぐらいであれば、逃げ出すことも可能だろう。

「お、お前はっ!」

 一時、場にそぐわない宗十郎と片桐のやり取りに、呆気に取られていた勝次が、宗十郎を指差して声を上げた。

「その陰気な感じ! お前が竹を殺った牢人だな!」

 少し宗十郎が渋い顔をする。
 普通にしているのに、一目で『陰気』だと言われるとは。
 横で片桐が、ぶは、と吹き出した。
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