行雲流水 花に嵐
「見事だな、旦那」

 見ると、首のないまま二、三歩進んで倒れた亀松の向こうに、要蔵が立っていた。
 その後ろから、駒吉が怖々覗いている。

「あら親分、遅いわよ」

「悪い。いや何、わしの出る幕もなさそうだったんでな」

 少し前に来ていたものの、下手に入ると邪魔になりそうだった。
 変に仲間を庇いながらの戦いよりも、周りにいる者全てが敵のほうがやりやすい場合もあるのだ。
 目に映る者全て倒せばいいのだから。

 それに見たところ、数はいるものの雑魚ばかりだったので、入らなくても問題なかろう、との判断だったらしい。

「裏で勝次も確認した。さすが旦那方だが……。肝心の上月の若当主は?」

「あ、そうそう。それがね」

 ぽん、と手を叩き、片桐は踵を返すと、見世の中に引き返す。
 僅かに残っていた男たちは、一目散に逃げて行った。

「宗ちゃんがお兄さんを追って、二階に上がって行ったのよ」

「え、若当主は蔵じゃなかったんかい」

「いえ、一旦は助け出したのよ。それが、何か逃げられたみたい」

「逃げる? 旦那からか? まさかそこまで意固地になってんのかい、あの若当主は」

 階段を上がりながら、要蔵が呆れたように言う。
 二人とも、何故仙太郎が見世に戻ったのかわからないのだ。

 二階に上がると、奥のほうが騒がしい。
 女どもの叫び声が聞こえる。

「あ~、まさか例の太夫のところに?」

「こんなときにかよっ」

 まさか逢瀬を楽しんでいるのではあるまいな、と、要蔵は足音荒く奥に進む。
 だが逢瀬にしては騒がし過ぎる。
 中でも一際キレているのが宗十郎のようなのだが。

「おい旦那。どうしたんだ」

 要蔵が一番奥の部屋を覗くと、一人の女郎の前で、仙太郎と宗十郎が言い争っていた。
 文吉が宗十郎を必死で宥めている。

「貴様はまだ、てめぇの立場がわかってねぇのか!!」

「わかっている! お前こそ、人の恋路に首を突っ込むな! 私の品格まで疑われる!」

 青筋を立てて怒鳴る宗十郎に言い返す仙太郎は、乱れた単一枚だ。
 げっそりと痩せているのに、このような喧嘩をする元気はあるようだ。
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