行雲流水 花に嵐
「ちょいと上月様よ、あんたぁ、この期に及んで一体何がしてぇんで?」

 要蔵が裏の顔全開で仙太郎に問う。
 その物言いに、ちょっと身を引いた仙太郎だが、宗十郎では話にならないと見、要蔵に向き直った。

「おぬしは亀屋を潰したのだろう? ならここの遊女は解き放ちだよな? この浮草を、貰い受けても構わんな?」

 ちらりと、要蔵は仙太郎の後ろで放心している女子に目をやった。
 いきなり亀屋は潰れた、自由の身なので一緒に来い、とか言われて混乱しているのだろう。

 しかも明らかにおかしな状態の仙太郎だ。
 どう対処していいものやらわからないらしい。

「まぁ……上月様は太夫の身請けを望んでましたしねぇ」

「そうだ! でも見世がなくなったのなら身請け代もいらんだろう。そこは感謝している」

「そこじゃねぇでしょ。わしらがここを潰したのぁ、色町のため、あんたの親父さんと奥方様の依頼のためだ」

 はぁ、とため息と共に言い、要蔵は再び浮草という女郎に目を戻した。

「わしはここの女郎は、色町の表のほうの見世に話をつけて、引き取って貰うつもりだ。売られた女子は、売られる理由があるからな。色町で稼いだ金を実家に送らねぇと、家族が飢えるとかな」

 ぐ、と浮草が下を向く。
 苦界に落ちる女の事情は似たり寄ったりだ。
 ほぼ家族のため。

 勝手に抜けたら家族が飢える。
 それでも耐えられなくて足抜けする者もいるが、そういう者は相当追いつめられた故だ。

「てことで、上月様よ、諦めてくんな。どうしても抜けさせたいなら、ちゃあんと身請け代を払うこった」

「み、見世もないのにか? お前に払うのか?」

 ぎりぎりと、仙太郎が奥歯を噛み締める。

「さっきも申し上げました。女たちは表の正規見世に引き取って貰いますよ。そこで、真っ当な商いをしつつ暮らすべきです。今までよりもキツいかもしれませんがね、元々苦界で楽しようってのが間違いなんだ。男をあこぎな手で食い物にした付けですな」

 正規の見世では、客を眠らせて金を巻き上げるなどできない。
 今まで楽してきた分、辛い未来が待っている。

「それも、いい旦那を見つけるまででさぁ」

 はは、と笑い、要蔵は浮草の肩を叩く。
 がっくりと項垂れた仙太郎の襟首を掴み、宗十郎たちは潰れた亀屋を後にした。
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