行雲流水 花に嵐
「ねぇ上月様。お願い、あんなところに行かないで。あたしじゃ物足りない?」

「そんなことぁねぇよ。最近表を歩いてても、何か胡乱な輩がいるからよ、気になってな」

 おすずの襦袢を押し広げながら、宗十郎は何気ない風に言葉を続けた。

「あそこに関わりのある奴が来たりはしねぇのかい」

 弥勒屋と亀屋は結構近い。
 見世の者が飯を食いに来ることもあるのではないか。

「あそこの人だかは知らないけど、柄の良くない男が来るようになったよ。そのうちの一人が、いっつもあたしに絡んでくるから気色悪くって」

「ほぉ? お前のこの身体目当てか」

 ぐい、と露わになった乳房を掴むと、おすずが小さく呻いて背を反らせた。

「あ、あんな奴には抱かせないよ。何されるかわかんないもの」

「ふーん……。まぁ裏関係の奴らにゃ、中町の裏稼業は漏れないに越したことはねぇがな」

 中町の飯屋で女子が抱けるということは、一部の人間しか知らないのだ。

「なぁおすず」

 上体を起こし、宗十郎はおすずを抱き寄せながら耳元に囁いた。

「その男の素性、探ってくんな」

「え……何で?」

 首筋を舐められ、息を乱しながらも、おすずは怪訝そうに言う。

「可愛いお前にまとわりつく奴ぁ、追っ払っちまったほうがいいだろ」

「上月様、あたしのために、あいつを追っ払ってくれるの?」

 嬉しそうに、おすずが宗十郎を覗き込んだ。

「嬉しい!」

 がばっと抱き付いてくる。
 そんなおすずを、宗十郎は床に押し倒した。

「だが相手の素性もわからねぇうちからは仕掛けられねぇ。亀屋の関係者なら、後ろがいるだろうからな。下手に手を出しゃ、返り討ちだぜ」

「わかった。上月様のためなら、何だってやるよ」

 無邪気に喜ぶおすずに、どこか冷たい笑みを返し、宗十郎はおすずの中に入って行った。
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