行雲流水 花に嵐
「……ま、まぁそうかもな。喧嘩拳法も侮れねぇ。片桐の旦那の言う通りだ」

 要蔵が僅かに渋い顔をして言う。

「も~。旦那って言うなって言ってるでしょ~」

「……」

「何よ、黙ってぇ。それはそうと、宗ちゃん、何か掴んだの?」

 要蔵らのこういう態度はいつものことだ。
 ひとしきり文句を言ったあとは、片桐はさっさと話を戻す。

「馴染みの女に探らせてはいるがな。おすずの情報と今の情報を合わせる限り、弥勒屋に出入りしてるのはその二人組の片割れだな」

「あー。もぅ宗ちゃん、また女の子使ってぇ。いくらおすずちゃんがあんたに気があるからって、無茶さしちゃ駄目なんだからね~っ」

 ずいっと片桐が、四つん這いで宗十郎に身を寄せた。

「変に関わっちゃ、おすずちゃんに危険が及ぶじゃない~」

「そこまで無茶はせんだろ」

「わかんないわよ~。宗ちゃん、女心ってものがわかってないわ~。惚れた男のためなら、虎の穴にだって入るかもなんだからね~」

 肩越しにつんつんと頬をつついてくる片桐を鬱陶しそうに押しのけ、宗十郎は脇に置いていた刀を掴んだ。

「やるかっ?」

 ぱっと片桐が飛び退って身構える。
 その素早さたるや、並のものではない。

 おまけにやたら楽しそうに目が輝いている。
 片桐は普段の女っぽさとは裏腹に、闘争狂なのだ。

「馬鹿。こんなところでやるかよ。どっちにしろ、もうちょっと情報を集めないといかんだろ。弥勒屋に行ってくる」

「ははぁ~ん。おすずちゃんが心配になったのねぇ~?」

 一瞬で構えを解き、片桐は両手を広げた。
 そして、要蔵のほうを見る。

「じゃ、あたしは亀松の周りを洗ってみるわ。駒も、もうちょっと亀屋に張り付いて亀松の動向を探って頂戴。亀松の拠点にしてる塒がどこにあるのか、突き止めたいわね」

「合点」

 駒吉が、すぐに頷いて立ち上がった。
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