行雲流水 花に嵐
 ぶらぶらと、片桐は色町からほど近い通りを歩いていた。
 黄昏時である。
 仕事を終えた棒手振りや遊郭に繰り出そうという者が、忙しく行き交っている。

 そのとき、不意に少し先で怒鳴り声が上がった。
 行き交う人々が立ち止まり、そちらを見る。

 片桐も、そちらに近付いて行った。
 進行方向だった、というのもある。
 見ると、どこぞのお嬢様とお付きの老僕が、三人ほどの男に詰め寄られていた。

「突き当たっておいて、謝罪もなしかよ!」

「じょ、嬢様は謝られましたのに、そちらさまが怒鳴るもんですから……」

「ああ? そんな小せぇ声で謝られたってわかるかよ!」

 どうやら老僕に庇われて震えている女子が、男に突き当たってしまったらしい。
 謝ったようだが、おそらくおっ被せるように怒鳴られ、掻き消されたのだろう。

 元々男たちは、娘の身なりからよからぬことを考えて、金でも取るつもりで因縁をつけたに違いない。
 よくある手だ。

「じいさんに用はねぇよ! おい嬢ちゃん! 俺のかよわい肩が外れたぜ! どうしてくれるんだ?」

 男が老僕を押しのけ、娘に手を伸ばした。
 が。

「うおっ?」

 いきなり男が手を引っ込めた。
 伸ばした指先を、何かが掠めたのだ。
 振り向くと、人だかりから一歩前に出た片桐が、小石をぽんぽんと手で弄んでいた。

「あら~。あまりの大声に驚いて、手元が狂っちゃったわ~」

 ころころと笑いながら、片桐は二つの小石をお手玉のように手の上で回す。
 そしてそのまま、男たちを見た。

「大の男が情けないわねぇ~。どんだけ弱い肩してんのよ」

「な、何だと! 何だてめぇは! 女みてぇなナリしやがって!」

「馬鹿じゃない? ナリは普通よ」

 おほほほ、と笑う片桐に、男は真っ赤になって詰め寄った。

「俺を誰だと思ってやがる!」
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