行雲流水 花に嵐
 言い様、ぱっと男は懐に呑んでいた匕首を抜いた。
 他の二人も、同じように匕首を構えている。
 野次馬から悲鳴が上がった。

 片桐はそんな牙を剥く男三人の構えを見た。
 喧嘩慣れしているようだ。
 構えも様になっている。

「誰だか知らないけど……。やるの?」

 きらりと、片桐の瞳が光る。
 だが手は腰に差した刀には伸びない。

「なますにしてやるぜ!」

 まず左にいた男が叫ぶと、匕首を振りかざして突っ込んできた。
 身体を捻って攻撃を避けると、片桐は人だかりの中にいた棒手振りに手を伸ばした。

「ちょっと貸して頂戴ね」

 にこりと言い、呆気に取られる棒手振りから天秤棒を借りると、それを一閃させた。
 勢い余って片桐を通り越したところでたたらを踏んでいた男の背を打つ。
 男はそのまま、その場に倒れ込んだ。

「あんた、かよわい肩を砕いてしまうわよ」

 言いつつ、片桐は仲間が倒された隙に向かってきていた頭の男の肩口に、棒を打ち込んだ。

「ぎゃっ!」

 男が叫び、匕首を取り落とす。

「今度こそ、肩が外れちゃったかもね~?」

 とん、と棒を回して己の肩を叩く片桐に、残る一人はすっかり戦意喪失したようだ。
 ぶるぶると震えながら、じりじりと後ずさる。

「こらこら、頭目を置き去りにするんじゃないわよ。見苦しい」

 肩を押さえて足元に蹲る男を棒でつつきながら、片桐は後ずさる男に言った。
 だが男はそんなことより己のほうが大事なようで、わっと叫ぶと反転して一目散に逃げ去った。

「あらぁ、薄情ね~」

 呆れたように逃げて行く男を見送り、片桐は足元の男に目を落とした。

「全く、大した腕でもないのに、こんな大通りで若い娘さんに絡むんじゃないわよ。いつまでも醜態曝しておくのは、あたしの美意識から外れるしねぇ」

 そう言うや、ひょいと屈むと、片桐は男の無事なほうの腕を取った。

「さ、とっとと行きましょうか」

「ど、どこに」

 驚く男に、片桐はもう一人、反対側に倒れている初めに向かって来た男の背を軽く蹴りながら答えた。

「決まってるでしょ。番所よ」

「じ、冗談じゃねぇ」

 腕を取られた男が慌てたように言うが、片桐はそのまま、男を伴ってその場を離れた。
< 27 / 170 >

この作品をシェア

pagetop