行雲流水 花に嵐
 店を出た宗十郎は、少し考えて裏道に入った。
 そろそろ色町も活気付く頃、裏見世は客引きの者が溢れている。

「兄さん、寄って行きなよ」

「いい娘がいるよ」

 いくらも行かないうちに、周りに人が集まる。
 ただ宗十郎が、世間知らずの坊にも見えないし、女を知らないほど初心にも見えないので、しつこいことはしつこいが、さほどでもない印象だ。
 おそらく宗十郎の纏う陰鬱な気のせいだろう。

 そういった者を適当にあしらいながら、宗十郎は何気なく亀屋を窺った。
 見世構えは、裏見世のどの見世よりも立派だ。
 表の大籬ほどもある。

 何も知らない金持ちの坊なら、間違いなく釣れるだろう。
 何せ周りはいかにもな見世ばかり。
 通り沿いはともかく、川沿いなど掘っ立て小屋だ。

---けどでかい分、中で少々騒いでもわからねぇぜ---

 そんなことを思いながら、一通り外観を観察する。
 だが窓が一つもなく、外からでは何もわからない。

---しょうがねぇ。中は片桐に頼むか---

 そのまま亀屋を通り過ぎたとき、路地から一人の男がさり気なく姿を現した。
 男は歩いていく宗十郎の背をしばし眺めた後、亀屋に入って行った。
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